政田 武史"赤の他人列伝"
政田武史は、布に絵具を染み込ませる技法"ステイニング"シリーズや、ビニールを貼ったパネルにアクリルで描いた"スムース・ぺインティング"を経て、近年はオイル・ペインティングとドローイングを中心に制作しています。民族的な慶事や映画、テレビ映像、オンライン映像や画像等の既成イメージを主な制作の出発点とした彼の作品は、躍動感のある大胆な筆致と鮮やかな色使いによる構成が高く評価されています。 3年ぶり3回目の個展となる今回は「赤の他人列伝」と題し、最新のオイル・ペインティングとドローイングを展示します。奇妙な語感をもつこの展覧会タイトルは、展示作品のうちの1点のタイトルでもあり、また、現代社会と表現の関係についての近年の政田の考察を反映したものでもあります。 インターネットを中心とした現代のメディアにおいて、個人として何らかの表現を発信すること、そしてその際に必ずついてまわる匿名性の要素と、オリジナリティの信ぴょう性の揺らぎ。たとえ本人が著作権を名乗り出たところで必ずついてまわる疑念というものについて語る上で、政田は以下のようにコメントしています。 「現代において『個人として発信が出来ている』と考えるのは妄想で、このことに『自覚的』、もしくは『無自覚的』かによって表現の質が変わってくる」 ときに大胆に、ときに慎重に絵筆の筆致が配置されたその画面はまるで、明確な情報が飽和し溢れ出してくる現代的なメディアの一種のようでありながら、慎重な取捨選択の結果として完成したストイックかつ抽象的な絵画空間としても成立しています。マクルーハンが「メディア論」で提示した、メディア自体の能動性が高い「ホット・メディア」と、受け手側の能動性を高める「クール・メディア」という相反する要素が共存しているかのような矛盾をはらんだその画面こそが、政田作品の大きな特徴といえます。 さらに、「ぬめり ザ・バランス」「赤の他人烈伝」「HAITOKUKANのマーチ」といった、こちらの虚を突くようでありながら多義的な、イメージ喚起力の高いそれぞれの作品タイトルからも明らかなのは、政田作品が備えているエンターテイメント性です。それはタイトルのみならず、色彩とリズムに満ちた画面にもっとも顕著にあらわれ、見る者の心を掻き立てる重要な要素となっています。 具象と抽象、能動性と受動性の同居という矛盾を備えた画面、絶妙な言語センスが垣間見える作品タイトルの妙、描く喜びを体現したような色使いと筆使いによるエンターテイメント性、そして情報と表現、個人と匿名性についての考察、これらの要素が一丸となって成立しているそれぞれの作品が、イメージの深奥へと鑑賞者を導きます。 政田武史
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